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【本】【映画】精神病棟系女子大集合 『クワイエットルームにようこそ』

クワイエットルームにようこそ

【本】
松尾スズキ著/ 文藝春秋

【映画】
監督・脚本:松尾スズキ/出演:内田有紀宮藤官九郎蒼井優 ほか

【あらすじ】
28歳のフリーライター、佐倉明日香は、ある朝目覚めると見知らぬ白い部屋にいた。そこは「クワイエットルーム」と呼ばれる、女子専用の精神病院の閉鎖病棟
見舞いに来た同棲相手の鉄雄曰く「アルコールと睡眠薬の過剰摂取で胃洗浄を行ったら量が多かったため」
という。明日香はそこに来た理由を思い出せずにいたが、個性的な患者達と接し、次第に馴染み始める。
Wiki先生からご拝借)

 

しょっぱなからゲロ炸裂で怯んだ訳だが、なんかゲロぐらいのことじゃなんとも思わなくなるくらい、この作品に出てくる人物はみんな濃い。
明日香の彼氏「鉄ちゃん」と鉄ちゃんの後輩で明日香が閉鎖病棟に入る事のきっかけを作ってしまう「コモノ君」以外は確か女しか出てこないんだけど、話は全然可愛くもないし癒されもしない。

精神病棟、と聞くと正直自分とは無縁などっか遠い世界のことかと思わされるけど、そうじゃないかもしれない。
多分なんだかんだ本作の中で一番常識人っぽい「ミキ」は、本当はご飯をまともに食べたい拒食症。
1日2万円の個室、通称『セレブ部屋』に入る「サエちゃん」は、病棟のアイドルであり体重26キロの最強摂食障害者。見た目は全くの一般人、どころか明日香曰く『天使に見えた』「栗田さん」は、確か最後までなんでこの病院にいるのかわからなかった。

「西野さん」と「チリチリ」は違う世界の人だなと思ったけど、主人公の明日香を含め、基本的には普通の人しか出てこない。ただ一瞬だけ、一歩だけ踏み外してからというもの、元の世界に戻ってこれなくなっちゃたんだろう。
悩みが無いことが悩みです、みたいな私が言っても現実味に欠けるけど、いつ誰が「ようこそ」と出迎えられてもおかしくないような気がしてしまう、やけにリアリティのある『今どきの精神病患者たち』が登場する。

病棟のナースたちも個性豊かで、「ナース山岸」は登場すると話のテンポが急に和むような雰囲気を持っていて、明日香曰く『エロい』。常に事務的で、あーこう言う人いるいる感溢れ出す「ナース江口」。終盤で江口はその事務的な態度ゆえ、明日香とひと悶着ある。でも、最後の最後で優しくなる。私は江口が結構好き。

登場人物は多いが本としてはすごく短いので、終始キャラクター紹介みたいなかんじで話が進んでいったように思う。文章もテンポ良く、明るい文体で進んでいく。でも、そのくらいライトな感じで書かないと、きっと読んだ後しばらく引きずるんじゃないかってくらい、題材としては重い。
主人公の明日香は鉄ちゃんと出会い、仕事が楽しくなってきたと感じた時に、泣きっ面に蜂のごとく悪運に好かれ、いつの間にかクワイエットルームに辿り着く。あんまり詳しく言えないけど、これが原因で結構なにもかも失っている。でも、前に進もうと、病院にいた時の自分をゴミ箱に捨てる。決して褒められるような人間ではないんだけど、その時の明日香は少しかっこよかった。 

病棟に残されたみんなは、明日香みたいに娑婆の空気を吸って青空を見上げることが、この先いつかできるのだろうか。


小説を読み終わった後、映画を観た。原作・脚本・監督が全部一緒という事で、原作そのまんまだな!と驚いた。そもそも原作が短いから2時間無いくらいでもまとまっちゃうんだろうけど。
映画ではとにかく大竹しのぶが大女優すぎる。狂った役と殺人鬼を演じられる人ってすごいと常々思ってるんだけど、大竹しのぶの「西野さん」は特に目を引いた。多分原作より強烈なキャラになってた。さすが大御所お笑い芸人の元妻。
あと言っておきたいのは、最高にカッコ悪い妻夫木聡が見たいならこの映画を観るべきだと思う。とりあえず、眉毛が繋がってる。あとはひたすら明日香に謝ってたって印象しかないけど、インパクトは強かったなあ。
個人的にはキャスト全員はまり役過ぎて、りょうなんかは多分昔ナースやってたでしょ、って思ってる。

キャスト含め原作そのまんまなので、活字がどうしても無理なら映画から入っても十分面白いと思う。
正直、凝った演出とかブッ飛んだ描写とかは無かったけど、まあこれも重い題材を軽くする策だったのかもしれないなーとかいい方に捉える事にしてる。

私はどっちかというと涙もろい方に分類されるかと思うんだけど、最後に鉄ちゃんと明日香が面会するシーンで不覚にも泣いた。二人ともなんだかよくわからない重荷をずっと抱えてたことに気づかないふりしてたんだろうな。でも、その重荷に気づいて、肩の上から降ろして楽になって、やっと一歩前に踏み出していった。

来た道をいつまでも行ったり来たりするよりは、わからなくても前に進んだ方が目的地は近づく。でもその前にまず、自分がどこにいるのか確認しないと地図は読めないな、と方向音痴ながらに思ったりした。

 

クワイエットルームにようこそ (文春文庫)

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