冗談は顔だけのつもりだ

そうさ100%現実

【ひとりごと】それは『キャラ愛』か、それとも『自己愛』か

 季節を感じる唯一のイベント、コミックマーケットが先日無事に幕を閉じた。私は二日目と三日目にあの湿地帯に足を運んだのだが、今年は天気が微妙に悪かったおかげで大事な大事なエロ本を汗で湿らせることもなくホッとしたものだ。

 私は腐女子であるが、同人誌を買う割合は年々男性向けの方が多くなっている。漫画アニメにご無沙汰していることも理由の一つだが、男性向け同人誌の方が私の夢と希望がギッチギチに詰まっていることが多いのだ。

 と、今はこんなことを堂々と書いているが、昔はとても躊躇した。女の子キャラクターのあられもない姿を見て夜な夜な「ンンンンンン」と声にならない声をあげている自分は異常だと思っていた。そりゃあまあ正常でもないのだろうが、仲間を見つけてからというもの、その異常さを自分の中で許せるようになったのだ。

 

 仲間を見つけるまでの私は、エロゲの体験版をダウンロードしてはやり、してはやりの繰り返しで飢えをしのいでいた。自分の性癖は異常だと思っていたし、実家暮らしの身には通販ほど恐ろしい購入方法はないし、かと言ってお店に買いに行く勇気もない。体験版なのでもちろんムラムラが完全に満たされることはないし、喪女である以上無料で発散できる場所もない。楽しさを共有できる相手だって周りには誰もいなかった。

 そんなないないづくしで燻っていた私を救ってくれたのが、コスプレ写真を掲載するある個人ブログだった。そのブログはコスプレイベントで撮ったレイヤーさんの写真を中心に掲載しているもので、女の子による女の子キャラコスプレの写真が中心であった。そのころはがっつり二次元の人間だったので、知っているキャラクターが出てくるととても嬉しく、またそのレイヤーさんが自分好みの顔立ちだと生唾があふれ出てくるくらいに興奮した。

 掲載されているキャラクターのほとんどが漫画やアニメのキャラクターだったが、ある時、エロゲのヒロインのコスプレをしているレイヤーさんを見つけたのだ。しかも可愛かった。これが世で言うカルチャーショックというやつかと思った。

 「女がエロゲなんてするはずない。エロゲは男のものだ。ましてやこんな可愛いお姉さんがエロゲなんてするはずない。絶対にするはずない」

 呪文のように頭の中で唱えたことを覚えている。それからだ。自分のような人間がこの世界にはたくさんいるかも知れない、と思ったのは。

 その予想はまんまと当たった。女でもエロゲをやることが決して珍しいことではない世界がそこにあったのだ。私はとんでもなく驚き、そして心から嬉しく思った。自分のおかしな性癖を包み隠さず笑顔で語りあう仲間ができ、秋葉原へ行って銀色のシールが貼ってある大きな箱を物色し、レジにそれを積み重ねて店員さんにドン引かれたりもした。

 それになんといってもエロゲレイヤーさんは可愛らしく美しく、みんな等しく頭がおかしかった。だが、作品やキャラクターへの愛情が人一倍強く、それぞれが気持ち悪いほどに二次元を愛していた。

 

 しかし、エロゲレイヤーは「トラレタ("撮られたい人"の略だろう)」とか言われて煙たがられることが多かった。男性のカメラマンさんが多い現状、男性向け作品をやっているレイヤーさんが目に留まるのは致し方ないことである。が、はたから見ればそれは「チヤホヤされたいがためにやっている」と思われているらしいということも、足を突っ込んでみてからわかったことだ。

 少なくとも自分の周りにそんな人間はいなかった。皆キャラクターを愛し、作品を愛し、衣装なんてどこにも売っていないので自作し、会場で集えばおっぱいの話かホモの話しかしない人たちばかりだった。そんな人間の集まりなのに悪く言われるのは大変癪だ、という話をしたことがある。

「好きでもない作品のために金も時間もかけるわけない」

 意見が一致した。そう、ただかまってほしいがために好きでもない作品に金と時間をかけるぐらいなら、新しいゲームを買ってエンターキーをひたすら押す作業に時間を費やす。そんなのは、私たちの中では当たり前の話であった。

 

 SNSの普及もあり、最近ではコミケをはじめ大型イベントのあとには必ずと言っていいほどコスプレイヤーさんの写真がネットに上がってくる。綺麗なものよりも汚いものの方が面白いネタになるのだろう。嘘か真か知らないが、見るに堪えない行動をとる大人がたくさんいるようだ。

 コミケではないが、私もコスプレイベントの会場運営に携わっていた時期があった。先ほど嘘か真か知らないと言ったが、男女問わず理解に苦しむ行動をとる人間が一定数いることは確かだ。「パンツを見せないでください」「盗撮はやめてください」これを大の大人に注意する。こんな馬鹿馬鹿しい話が当たり前にある世界でもあったのだ。

 ああ、コスプレはいつからこんなえげつない、低俗なものになってしまったんだろうか。コスプレはアイドルへの踏み台でもないし無料の風俗でもない。己の欲を満たすだけで起こしたその行為を、大いに恥じ、そして改めてほしいと心から願う。

 作品の延長線上にコスプレがないのなら、それはただの『自己愛』だ。キャラクター表現としてではなく道具として衣装を着て、オカズのために写真を撮っているだけだ。そういうオタク気取りの人間は、『キャラ愛』を持って戦場に臨む勇者たちに大変失礼である。もう二度と聖地に足を踏み入れないでほしい。

 

 なんだか今年の夏コミが全然楽しくなかったみたいなことばかり書いたが、そんなことは全くなく、とても楽しく有意義だった。夏が終わればもうすぐに冬がやってくる。もちろんまた三日目に、私は鼻を鳴らして聖地へ赴くことになるだろう。今からめちゃくちゃ楽しみで、もう現実に戻れそうにないので明日も仕事を休みたい。