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【テレビ】春田創一は「あっち側」に行ったのか

※この記事はわたくしが過去に「note」へ投稿した記事ざんす。「note」のアカウント消しちゃうにあたり、もったいないのでこっちに移動させたっていうことなんでよろしくお願いします。

 

 

>2018/06/03 15:26投稿

 

 「おっさんずラブ」最終回の前、私が愛してやまない作家・三浦しをん先生の新刊が出たんですよ。いきなりですけど宣伝いいですか。

www.kadokawa.co.jp

横浜で、ミッション系のお嬢様学校に通う、野々原茜(のの)と牧田はな。
庶民的な家庭で育ち、頭脳明晰、クールで毒舌なののと、
外交官の家に生まれ、天真爛漫で甘え上手のはな。
二人はなぜか気が合い、かけがえのない親友同士となる。
しかし、ののには秘密があった。いつしかはなに抱いた、友情以上の気持ち。
それを強烈に自覚し、ののは玉砕覚悟ではなに告白する。
不器用にはじまった、密やかな恋。
けれどある裏切りによって、少女たちの楽園は、音を立てて崩れはじめ……。

 

 察しのいい人ならわかると思うんですけど、女性同士の恋愛の話です。いや、恋愛という言葉には当てはまらない、もっと深くて曖昧で強固な関係性で結ばれた、「人と人の人生を描いた物語」と言った方がいいかもしれない。

 こっから本のネタバレ入るんで気をつけてちょうだいな。

 「のの」と「はな」は学生時代に大恋愛をして心身ともに結ばれ、そしてある事情で別れます。ここまですべて10代の話なんだけど、それからこの物語は約30年間続きます。30年の間、2人は手紙・メールのやりとりで関係をつないでいくんだけど(なんとこの小説、全部2人の手紙・メールの文章だけで構成されてます。スゴい)、その間に「のの」は別の女性と付き合い、「はな」は男性と結婚します。

 要するに、「のの」は女性を愛する女性で、「はな」はそうではない。だけど、確かに2人は愛し合っていて、別れてからの30年も、ずっとお互いの心の中には「のの」「はな」がいる。新しいパートナーができても、理想の旦那と生活を送っていても、1番心が躍り、そしてかき乱されるのは、「のの」「はな」から手紙・メールが来た時。たいしたことない(たいしたことある時もあるけど)近況を知ったり、相手が今も自分のことを思っていると確認できた時だけなんですよね。

 恋人になった時におそろいで買った指輪を、30年経ってもずっと身につけてるし。これってなに? 一体どんな関係なの? と考えて、2人の関係を言葉で定義することのバカバカしさに気がついたんですよね。「恋人」「友達」「親友」「家族」とか、一体誰がどうやって決めるんだろう?

 

 牧凌太は「ゲイ」で男性が好きな男性。そんで、春田創一はそうではない。でも、春田は牧という“人間”を知って彼に恋をし、そして結ばれたいと願った。じゃあ春田が「あっち側」の人間になったのかというと、絶対にそうじゃないと思うんですよね。ていうか、「あっち側」ってなに? あっち・そっちなんて、本当にあるの?

 私がこのドラマで1番よかったな、ってか、好きだなって思ったのは、春田がずっとまっすぐに“人と人”の付き合いをしてたことなんですよね。部長に告白された時も、「上司として尊敬しているけど、それは恋愛感情じゃない」から断っていて、決して「男だから」部長を受け入れなかったわけではない。でも、だからこそ部長は自分にも可能性があると感じて、なかなか諦められなかったんだけど。これもまた、人と人との付き合いだからこそ生まれるもどかしさ・不安定さで、これが作中でものすごくうまく作用していたんですよね。毎週「一体この先どうなってしまうんだ……」と唸り続けていた日々が、今となっては懐かしい。

 春田のそういう“なんでも受け入れてしまう”危なっかしさに、何度も「コノヤローーーーー!!!!!!!!!!」と叫んだけど、それは彼が相手を性別や年齢、さらには付き合いの長さですらふるいにかけることなく、「今、自分はこの人をどう思っているのか」と必死で向き合っていたからで。そんな中で、あんなに何人にも告白されたら、そりゃあ困っちゃうよ。だってみんなのことが好きなんだもん、人として。その中で、「牧とずっと一緒にいたい」気持ちが恋愛感情だと気づいた。ここまでに7話分(てか、最後15分になるまで)かかった春田さん、本当にウソがないまっすぐな人だよねえ。

 

 牧と春田は、ののとはなと違って「結婚」という形を得たから、関係性を定義することはできる。でも、春田の性的指向を定義するのは、なんか違うなと。いや、そんな必要あんのか? って。

 だって、春田は「男だから」牧を選んだわけじゃなくて、「牧だから」牧を選んだんだもん。道路の向こうにいる牧のもとに駆け寄ったのも、牧がそこにいたからで、春田は牧のところに行っただけ。牧にとってはあの道路が海よりも深い大きな大きな溝に見えていたかもしれないけど、春田には横断歩道さえあれば簡単に渡れるただの道だった。春田にとっては“性別”なんて、その程度のちっぽけなものだったんだと、私はそう思いたいのです。

 どこまでもフラットに、まっすぐに相手を見つめ、誰かが決めた定義に縛られることなく、自分に正直に生きていいんだということを、私はののとはな、そして牧と春田から、奇しくも同時期に教えてもらったのでした。

 

 あ、もしこれから、牧と春田がケンカすることでもあったら、春田には「もういい、ロリ巨乳がいる合コン行ってくる」って言ってほしいし、牧には“必殺”「……武川さんのところに行こうと思って」を繰り出してほしい。それでも必ず、2人があの家に帰ってくると信じているから。