冗談は顔だけのつもりだ

そうさ100%現実

【映画】WOWOWドラマ『フェンス』を見る予定の人に、映画『SHE SAID』を勧めたい

JO1・與那城奨さん、ドラマ『フェンス』ご出演おめでとうございます!!!!!!!!!!!

wowow.co.jp

 今さらだけど、うれしいから何度でも言っちゃう。しかも(ちゃんとした)映画並みのクオリティが約束されているWOWOWで、『逃げ恥』『アンナチュラル』などのヒットドラマを手がけた野木亜紀子大先生の脚本という、「こんなに恵まれちゃっていいの?」状態で本当にありがたい。誠にありがとうございます。

 単純に與那城さんがどんな演技を見せてくれるのか楽しみなんだけど、正直なところ、毎週「カッコよかった♡」では終われなさそうな気配は強く感じている。性暴力や基地問題が題材であることはもちろん、これまで社会派作品を多く世に送り出している野木さんの脚本であること、出演者のほとんどが沖縄出身の“当事者”であることなどがその理由だ。作り手が真剣に問題と向き合い、真っ直ぐに伝えようとする姿が見えてくる。

(これを地上波でやったらなおよかったと思うけど……。何が理由かわからないので、深くは突っ込みませんが)

 

 だからこそ、私も事前の準備をしてから『フェンス』に挑もうと思い、沖縄で未成年の少女たちの支援や調査を行っている、上間陽子先生の著書『海をあげる』を購入した(これから読みます)。

※この辺りの記事を読むと、本の内容や沖縄の現状がふんわり理解できるかも。

news.yahoo.co.jp

 

 さらに、現在公開中の映画『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が、これから『フェンス』を見ようとしている人に向けた“いい教材”になりそうだと思ったので、ぜひおすすめしたい。

shesaid-sononawoabake.jp

 私はもともと、こういう「実話ベースのストーリー」「記者カッコいい作品」が大好きなので、すでに今年No.1が決まったと思うぐらい感銘を受けた。だけど、すでに上映館数が少なくなってるし、アカデミー賞からはガン無視されるしで、マジでキレそう。だからお願い見て!!!!!(雑)

 

 で、なんで『フェンス』を見ようとしている人に勧めたい映画なのかというと、「記者と当事者」「性暴力とシステム」という軸が共通していると感じるからだ。そして、『SHE SAID』は『フェンス』のような作品が生まれる大きなきっかけとなった、「#MeToo運動」の始まりを描いているからである。

 

※「#MeToo」について知らない人は、まずこのあたりを読んでみるのはいかがでしょうか。『SHE SAID』に登場する、実在の記者2人のインタビューです。

www.businessinsider.jp

 

 当然、「難しいことはいいから、推しの演技だけ見られればいい」って人もいるだろうし、それはそれでいいと思う(というか、私は口を出す立場にない)。ただ、これから『フェンス』で描かれるだろうことは、決して「ドラマの話」ではなく、「今もどこかにある真実」のはずだ。そして、一度でも真実を知ってしまえば、もう「知らないふり」はできない。しちゃいけない、とすら思う。

 おそらく、それぐらいの覚悟を持って見たほうがいい作品になるだろうし、そんな作品に與那城さんが出演することがとても誇らしい。だからこそ、いちオタクの自分もしっかりと受け止めたい。そのためにできることを、放送までにやっておきたいと思っているワケだ。

 

 前置きが長くなったが、『SHE SAID』に少しでも興味を持ってもらうために、前述した「記者と当事者」「性暴力とシステム」という共通点について、ちょっと説明させてほしい。

 

■記者と当事者

 『SHE SAID』は、ニューヨーク・タイムズ紙で働く、実在の記者2人が中心に描かれる。彼女たちは、数々の名作を世に送り出した映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインの性暴力を告発しようと奮闘するも、そう簡単に事は進まない。なぜならば、被害の“当事者”である女優やモデル、スタッフたちが、事件について語ろうとしないからだ。

 その理由は、話(取材)が進む中で明らかになっていくが、2人の記者および新聞社は、誰かが実名で被害について証言するまで、絶対に記事を出さない。

 前クールに放送されていた日本のドラマ『エルピス』の中に、「権力っていうのは瞬殺するしかないんだよ。いかに一撃で倒すかだ。モタモタしてたら反撃を食らう。そんなことしてる間に、敵は全力で倒しにくる」という週刊誌記者の台詞があったけど、まさにこれ。ワインスタインという権力者を一撃で倒すには、誰が見ても明らかな被害の証拠が必須なのである。

 

 しかし、被害女性たちに当時のことを思い出させ、その内容を自ら語らせることは、暴力性をはらんでいると感じた。『SHE SAID』で特に印象に残ったシーンがある。取材も裏取りも進み、実名で証言してくれる被害女性が1人でもいれば記事にできるという段階で、記者の1人が「誰かがオンレコ(公表して差し支えないこと)で話してくれたら」と漏らす。しかし、もう一人の記者はこの発言に「それは違う。彼女たちは公表を望んでいない」と返すのだ。

 記者が「ワインスタインの悪事を告発したい」と正義感を持って取材するのは“仕事”だが、被害女性たちはそうじゃない。記者以上に強い正義感を持ち、あらゆるリスクを犯しても公表するという勇気がなければ、決して行動できないだろう。被害者側が圧倒的不利な状況に置かれることには憤りしかないが、だからこそ“告発”というものは、慎重に扱わなければならないワケだ。

 映画の終盤、ある女性から記者に「記事に名前を出してもいい」と電話があったシーンは、ボロボロ泣いた。被害女性たちの勇気と正義感が、世界を動かした瞬間だった。

 

 『フェンス』もまた、松岡茉優さん演じる雑誌ライターが、米兵による性的暴行事件の被害を訴える女性(宮本エリアナさん)を取材しながら、事件の真相に迫る話だと予告されている。真実に迫り白日の下に晒す記者は素晴らしい仕事だと思うが、その裏には必ず、“当事者”の勇気と正義感がある。これを忘れずに、ドラマを見たいと思っている。

 

■性暴力とシステム

 『SHE SAID』の公式サイトに“答え”が書いてある。「問題はワインスタイン以上に、性加害を守るシステムにある」という一言のことだ。性暴力は個人の感情や生理的欲求の問題ではなく、“構造”の問題だと端的に示す、極めて重要な台詞だと思う。

 ワインスタインは自身の権力を使い、絶対に逆らえない相手に性暴力を働いた。抵抗した女性は、永久に映画界から締め出す。そもそも、女性たちは示談に応じるしかなく、少しでも性暴力の事実が外に漏れれば訴えられてしまう。どんな被害を受けても“なかったこと”にされるし、そうしなければ生きていけない状況に置かれるのだ。権力者をさらに優位に立たせ、弱者を排除するシステム。問題の根源はここにあるということを、『SHE SAID』を見て改めて実感した。

 これは性暴力のみならず、例えば上司から部下へのパワハラをはじめとした、あらゆる労働問題にも同じことがいえるだろう。「ドラマや映画の話」ではない、「今もどこかにある真実」なのである。

 

 日本の防衛のため、沖縄に基地を置くアメリカ。基地問題については勉強不足なので、ここでは何も言えないが、米軍による性的暴行事件が起こった時、一体「誰を守るシステム」が作動するのだろうか。『フェンス』も、そこまで踏み込んだ内容になることを期待している。

 

 

 最後に、明日27日にTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で、『SHE SAID』が取り上げられる。同番組のパーソナリティであるライムスター・宇多丸氏が、毎週1本、映画の評論を展開するコーナーで、18時半ごろからスタートする(番組は18時スタート)。興味を持たれた方は、ぜひ聞いてみてほしい。

 私なんかよりよっぽど深い読み込みをされて、的確に言語化してくれるはずだ(ハードルを最大限まで上げておく性悪リスナー)。

www.tbsradio.jp