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【テレビ】『連続ドラマW #フェンス 』からはじめる社会派ドラマのススメ 〜いいから無料で第1話を見ろ〜

 『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』『MIU404』などのヒット作を手掛け、ドラマファンのみならずお馴染みの脚本家になっているだろう野木亜紀子さん。そんな野木さんの最新作『連続ドラマW フェンス』が、現在WOWOWで放送中なのをご存じでしょうか。

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 4月16日に最終回を迎える同作、オンデマンドではすでに全話配信済み。私は放送を待てずに配信で最終回まで見てしまったのだけど、見終わってからまず、野木亜紀子先生に感謝しました。そして、「これからもあなたの脚本を信頼します」と手を合わせたのでした。

 

 「沖縄を舞台に性的暴行事件の真相を追う、エンターテイメント・クライムサスペンス」と銘打たれた『フェンス』。さまざまな問題が横たわる中で進むストーリーは、楽しい気分になる場面ばかりではないです。むしろ、やるせなくなったり苦しくなったりすることのほうが多く、最後にようやく希望が見えてくるような感じ。

 しかも、地上波放送でも無料配信でもなくWOWOWの作品となると、そもそも視聴のハードルが高い。それでも、この良作をスルーしてしまうのはもったいないと思っています。特に映画・ドラマ好きな人が見たら「これぞ野木さん」と感じるような骨太作品だと思うので、ぜひ見てほしいです。

 

 「だけど、今から全話見るのは無理でしょ?」「最終回だけ見てもわからないし……」と思ったあなた。よく聞いてください。なんと、

最終回が放送される4月16日の18時から、

第1〜4話の一挙放送があります!!!!!!!!!!!!!!!!

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しかも第1話は無料で見られる!!!!!ヤッタネ!!!!!だったらとりあえず、1話見てから2話見るか決めればいいね!!!!!ね!?!?!?!?!?!?

 

 さて(急冷静)、ここから『フェンス』の中身に触れていこうと思います。私がこの作品をおすすめしたいポイントは、大きく分けて以下の2つ。

◎「はじめての社会派ドラマ」にピッタリ

◎「女性の連帯」「男性性の呪縛」を“どちらも”描く

 それぞれ具体的に書いていきますが、前提として、“最終話まで見ている人の感想”だということをご了承ください。また、決定的なネタバレはしませんが、人物設定についてはある程度説明を入れます。なので、ネタバレ絶対に許さない人はこれ以降読まないでもらって、今すぐWOWOWを契約してください。

 

 

 

 

 そんじゃいきます!

 

 

 

 

◎「はじめての社会派ドラマ」にピッタリ

 日本でもようやく、現行の社会問題や政治などを“エンタメ”として発信する作品が増えてきたけど、その流れを作ってきた1人が野木さんだと認識しています。だからこそ、とっつきにくい(と思ってしまう)テーマをどうやって見せればいいか熟知していて、ドラマとしてもちゃんと面白い。そしておそらく、「難しいテーマだから見るのをやめよう」と思ってしまう人たちへのアプローチを強く意識している気がします。

 『フェンス』は沖縄が舞台であり、沖縄だから抱えざるを得なくなったさまざまな問題が描かれます。……といっても、その全てを正確に理解している人はほぼいないのでは。私もはっきり言って、教科書に載っていたことすら覚えている自信がありません。

 一方、作中にはとにかく“説明”が多い。例えば、主人公の雑誌ライター・キー(松岡茉優さん)が編集長から「沖縄についてどれぐらい知ってる?」と聞かれるシーン。キーは沖縄の歴史から基地問題までをつらつらと喋りながら、「これぐらいしかわかんないですわ〜」みたいなことを言うのだけど、多分ほとんどの視聴者は「そんなに知ってんのかい!」と驚くと思います。しかし、ここで語られた「沖縄」は、その後『フェンス』で描かれるアレコレを見る上で必要な前提知識なんですよね。

 普通のドラマなら「説明セリフが多い場面」だと嫌がられるかもしれませんが、『フェンス』の場合は、制作側が意図的にこうした説明セリフを入れているように思えました。登場人物を介して、「おめーら本土の人間は沖縄のことなんも知らんだろ? だったら教えてやるよ」と言っているような感じ。逆に考えれば、こうした場面が「ドラマを見ているだけで自然に沖縄のことを学べる」仕組みを作っているわけです。

 社会派作品が避けられる理由の一つに「知識がないからよくわからない」があると思っていますが、制作側はそこに配慮したのかもしれません。だから私は、今まであまり社会派作品に触れてこなかった人、なんか難しそうだと思って避けてきた人にこそ『フェンス』を勧めたい。出演者から「まずは知ることが大事」といったコメントが何度も出ていたけれど、まさに「目の前の問題を多くの人に知らしめる」ことが作品の目的なのだと感じました。

 

 また、ミステリー要素やちょっと笑えるシーンもあって、エンタメ作品としてしっかり成立しているところもスゴい。最初に書いたように、胸を締め付けられるような場面も多いけれど、硬軟織り交ぜながら話が進んでいくので、ホッとする瞬間もちゃんと存在します。

 だからとにかく、まずは第1話を見てほしい。4月16日18時から放送の第1話は無料で見られます。「WOWOWオンデマンド」なら、BS視聴環境がなくてもスマホタブレットで視聴可能。しかも今見たら「お申し込み月は無料」らしいです。逆に入らない理由を教えてもらっていいですか?(圧)

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 ということで、私の中では「はじめての社会派ドラマ」としての『フェンス』を一番にお勧めしたいのだけど、もうちょっと踏み込んだ理由がこれです。

 

◎「女性の連帯」「男性性の呪縛」を“どちらも”描く

 全5話を見終わってから、『フェンス』というタイトルが非常に秀逸だと感じました。第1話でキーが取材のため沖縄を訪れ、一番最初に違和感を抱くのが米軍基地のフェンス。どこまでも続くその長さに、視聴者も驚かされることでしょう。

 しかし、フェンスのような“隔たり”は私たちの生活にたくさん潜んでいて、作品の中では特に「沖縄と本土」「日本とアメリカ」「人種」「ジェンダー」「世代」について描かれていきます。この中で私が特に印象深かったのは「ジェンダー」についてでした。

 米兵による性的暴行事件を訴えるブラックミックスの女性・桜(宮本エリアナさん)とキーがバディとなって、事件の真相を探っていくのがこのドラマの主軸。この2人に加えて、世代や立場、生い立ちの違う女性たちが“連帯”して支え合い、それぞれに前進していく姿が『フェンス』の面白さと言っていいでしょう。

 正直なところ、“女性のバディもの”と聞けば上記のような展開は大体予想できますし、それを期待して見る人も多いはず。なので、これと言った目新しさはないのですが、そんな中でも目立っていたのは、女性同士で「あなたは悪くない」というやり取りが何度も見られたことです。

 「短いスカートを履いていたから」「そんな格好で出歩いているから」「抵抗しなかったから」など、被害に遭った側にも落ち度があると“思い込まされる”言葉の数々。これに女性自ら徹底的に抵抗しながら、「あなたは悪くない」と優しく包み込む。こうして女性が連帯する場面が各話で見られ、胸のすく思いでした。

 

 一方で、男性の描き方も抜かりない。基本的に『フェンス』に出てくる主要な男性キャラクターは、圧倒的加害者か、無意識に男性性(男らしさ)を見せてしまう人の2択。その中で、男性性に苦しめられるキャラクターというのが、JO1・與那城奨さん演じる仲本颯太です。

 颯太は、家族のために米軍基地で働く“長男”。両親と妹がいる彼の家庭には大きな問題が横たわっているものの、家を出る選択肢はありません。なぜならば、颯太は「長男だから」自分に選択肢はないと思い込んでいる(思い込まされている)のです。これはまさに「男性性に縛られる男性」の姿で、影に隠れがちなジェンダー問題の一つだと感じています。

 女性主人公なので、視聴者は女性の活躍を期待しているでしょうし、男性側のジェンダー問題を描かなかったとて、大きな不満は出ないと思います。それでも一歩踏み込んで、「女性と男性」の隔たりにとどまらない複雑なジェンダー問題の構造、ひいては社会問題の構造を、颯太というキャラクターを通じて見せたわけです。私が『フェンス』の中で一番驚いたのは、間違いなくこの部分でした。

 野木さんとプロデューサー・北野拓さんの対談では、野木さんから「私はあの役(颯太)に希望を託しているんですよね」という言葉もありました。この意味は第5話ではっきりとわかりますので、絶対に最後まで見てほしいです。

www.cinra.net

 

 ……え? どうやって見たらいいかわからない?

 下記のページにアクセスして、何も考えず個人情報を入れてください(特殊詐欺?)。

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 最後にファンとして、與那城さんが『フェンス』に出演されたことを大変うれしく思っています。與那城さんが出ていなかったら、私はこの作品と出会っていなかったでしょう。これをきっかけに、“知ろうとし続ける努力”をしていきます。素晴らしい作品に全力で挑んでくれて、ありがとうございました。